歌声喫茶「灯」の青春
ある日、若い、目の大きな女性が大きな口をあけて歌っている
写真を見つけた著者。これが、半世紀前の母の姿であることに驚き、
母へのインタビューを開始する。
著者は「うたごえ運動」も「歌声喫茶」も知らず、ただ、今でもなお
アクティブに活動している母(里矢)の姿を見て、自分に足りないものを探す
ために、母にいろいろ聞き始める。
じつは、母は、ひょんなことから、日本で初めての歌声喫茶「灯」の
創立者(歌唱指導者)となった人物であった。写真も、「灯」で歌っていた
ときのものである。
終戦後10年の、まだ生きるだけでも精一杯であった時代に、母を始めとして、
多くの若者たちは、「うたうこと」に飢えていたようである。
それにしても、シャイな日本人を、歌うことに巻き込むことに成功した里矢さんは
すごい。
里矢さんはすごい、と単純に思ってしまうのだけれど、里矢さんはそんなご自身のことをすごいだなんてこれっぽっちも思っていない。成功は、過去の努力に属すものでしかなく、常に「じゃあこれからどう生きていこうか」というガッツのある姿勢で生きて来られたのである。
里矢さんと、インタビューに協力してくれた「灯」のみなさんの話に共通していえることは、人はひとりでは生きられないから、「縁」をしっかりと掴まなくてはいけないということ。でも、その「ご縁」の前提には、自らを確立するための不断の努力が欠かせないということ。