『ドラゴンは踊れない』
『ドラゴンは踊れない』アール・ラヴレイス著中村和恵訳
みすず書房(2009)
カリブ海に浮かぶトリニダード・トバゴの首都ポート・オブ・スペイン
のスラム街で、若き青年たちは喧嘩や年に一度のカーニバルの準備、スティールバンドでの演奏をしながら生きていた。しかし、喧嘩もカーニバルもバンドも、全てが資本主義に呑み込まれていき、その根っこの抵抗精神のようなものが引き抜かれていってしまう。その過渡期にいた青年たちは、抵抗しようと試みるものの、時代の波にのまれていってしまう。
青年、オルドリックはカーニバルのために「ドラゴン」の衣装を毎年準備して、定職にもつかないでいるが、彼はシルヴィアに心惹かれる。オルドリックは、金も地位もない、一匹の「ドラゴン」でしかなく、最終的には、シルヴィアは市議との結婚を選ぶ。
オルドリックがシルヴィアから身を引く決心をしたのは、「彼女が彼女自身であるため」であった。彼の心にあったのは、シルヴィアに対する本物の力と信頼と愛だったのである。
追記:
ドラゴンは踊れない、のではなく、「踊れなくなった」のかもしれない
漫然と若さを消費して年をとることの悲劇的な側面だ。でも、彼らには、
漫然と若さを消費する「しか」生きるすべがなかったのだ。
いや、それも正確ではないかもしれない。彼らの仲間のフィロだけは
カリプソ歌手として成功して、あの丘を脱出できたのだから。